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「迎えにきてほしいってずっと思ってた」
考え考え、私はゆっくりと話す。
「一緒に住みたいって思ってた。借金がなくなって、二人がまともになって、普通の暮らしがしたいって」
膝の上にのせた手をきゅっと握る。
「でも、実際そんなことはなかった。二人は変わってなかったし、そうなるだろうってことはわかってた。でも、どこかでまだ希望があって。……だけど」
ふっと、社長の顔が思い浮かぶ。
知ってしまった他の居場所。
冷たくて、優しくて、どうしようもなく泣きたくなる場所。
「私はあの二人みたいにはなりたくないから、絶対。情とか縁とかに流されて昔に戻りたくない。恨みとか怒りとかは別のところで、人としてそう生きたくない。だから一緒にいるわけにはいかないんだよ。私は自立したい」
そう、それだけ。
祖父母にひきとられて、そう誓ったのだ。
二人にこれ以上迷惑をかけたくない。恥をかかせたくない。できるだけ恩返しをしたい。
「自分の意志で選んだことだから大丈夫。おじいちゃんとおばあちゃんが気を遣う必要はないよ」
にっこりと笑ってみせると、二人はどこかほっとしたような、なんともいえない表情で私を見た。
もうこんな悲しい顔をさせたくないな、と思う。
私は両親よりも、おじいちゃんとおばあちゃんの家族でありたい。
そう告げると、祖父母は今度は表情を和らげて微笑んでくれた。
その顔を見て、私が思っていたよりももっと家族として見てもらえていたのかな、と私もうれしくなって、今度は自然と笑うことができた。
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