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「まず、謝らないとね」
祖父に窘められ、しぶしぶ腰を下ろすと、母が取り繕うようにそう言った。
「あなたを置いていったのは仕方なかったことなのよ。あの時は、ほら、怖い人がたくさん家に来ていたでしょう?だから私たちと一緒にいると危ないと思って。ね?」
「……ああ、そうだ。おまえの安全が第一だったからな」
話を振られて、父がようやく口を開く。
不思議な話だ。
私の安全が第一で、どうして借金取りの押しかけるアパートに捨てていくことができたのだろう。
「でも、ずっとあなたのことを考えていたのよ。忘れたことは一日もなかった。ずっと会いたくて、だけど、完全に安心して生活できるまでは、って思っていたら、五年も経っちゃって……」
語尾を震わせ、母はハンカチで目頭を抑える。
その手に伸びる爪は、綺麗にネイルで飾られている。
「やっと会えるようになったから、真っ先に、あなたのところに来たの。恨んでるのはわかってる。でも、でもね、お母さんもお父さんも、ずっとあなたと暮らせることを夢見てたのよ……」
お母さんも、お父さんも。
頭のてっぺんから爪先まで、ぞっと寒気が駆け抜けた。
泣き崩れる母の肩に、父がそっと手を置いた。
台本通りの演技のよう。
私とそっくりの彼の目が、こちらへ向けられる。
「リョウ、また俺たちと一緒に暮らそう」
温度のない、懐かしい声で父は言う。
「今度はみんなで。おじいちゃんもおばあちゃんも一緒に、みんなで暮らそう」
ところでいつ謝ってくれるのだろう、とぼんやり思った。
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