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玄関からただいまと声を掛けると、真っ先に顔を見せたのは父だった。
「おかえり」
怒られるかと思ったが、穏やかな声を掛けられる。
それでも安堵の息を吐くような口調で、心配していたのがありありとわかり、私はいたたまれずに小さく頭を下げた。
「旭の血はどうだったかしら、美夜」
後から出てきた母は、壁にもたれて腕を組む。
今日も相変わらず美しく、いつもの全て悟った表情でにやりと口角を上げた。
「な、何を聞いて……!」
「帰ってくるなりんなこと聞かないでくださいよ!」
声を上げたのは前後の男二人。
動揺する人間たちを見て、母は声を上げて笑う。
「あら、大事なことよ。私たちが見目良い人間を探すのは、綺麗な料理が美味しいから。好きな人を選ぶのは、愛がそれ以上のものだから。そうでしょ、美夜。旭の血は美味しかった?」
母はちらりと旭の腕の包帯を見て、私の顔を覗き込む。
後ろに立つ旭が、あからさまに体を緊張させる。
父まで顔を強張らせ、じっとこちらを見下ろす。
私は小さく溜息をついた。
「これ以上の味はないわ。最上級よ」
旭が息を呑む気配がして、父がほうっと肩で息をつく。
母は面白そうに笑い、旭の首の歯の痕を指でなぞった。
「ま、あんたの場合は顔がいいから。美夜はどっちの意味で言ってるのかしら」
「……は?ちょ、えっ?」
動揺する旭を置いて、母は不敵な笑みを残して父を連れて家の中に入っていく。
私は旭をちらりと見上げ、巻き込まれないようにさっさと二人の後を追いかけた。
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