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「おまえは俺を傷つけたくないとか、そんな馬鹿なこと考えてんだろ。そういうの、要らないんだよ」
図星を差されて、私は思わず身を引く。
「俺だってそう思ってた。絶対手ぇ出さないって思ってたよ。でも、傷つけた。傷つけてでも、傍にいたいと思った」
手首を掴む旭の手に力がこもる。
後悔や罪悪感を押し殺したようなその声に、私は強く唇を噛む。
「美夜、俺はおまえといたい。死ぬまで一緒にいたい。それ以上に幸せな未来があるとは思えないし、必要ない。傷ついても、傷つけてでも、ずっと傍にいたい」
まっすぐな目で私を射抜き、旭は予想以上の言葉をくれる。
「だから、俺をおまえの特別にしろ。俺の血を吸え」
強い視線で、強い言葉で私をねじ伏せて、そのくせどこか泣きそうな表情をする旭に馬鹿だなと思う。
傷ついてでも、傷つけてでも、なんて。
あの行為以上の言葉をくれるなんて。
そういうところが好きだと思う。
胸が軋むほど、好きだと思う。
「特別だから吸えないの」
吐き出した言葉に、手首を掴む旭の手の力が緩む。
「旭の血だから、吸えない。傷つけてでも、吸いたくない」
一瞬驚いたように目を見開いて、旭はすぐに表情を歪めた。
帰って、と旭の体を突き飛ばす。
渇いた喉に涙が流れ込んで、息が詰まって苦しくなった。
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