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そんなことを考えていたある日、鳴るはずのないドアベルの音が家に響いた。
鍵は開いている。
キッチンで渇きをごまかそうと水を呷っていた私は、身を強張らせて玄関のほうを凝視する。
まさか、こんなに早く。
かつかつと革靴の音が響く。
誰か探しているように、時折立ち止まりながらこちらに近づいてくる。
誰かも何も、私を探しているのは明白だ。
逃げ場を探し、シンクにグラスを置く。
グラスが倒れて、派手な音が響く。
足音がこちらに気づき、まっすぐにキッチンへ向かってきた。
私は壁に張り付いて、息を殺し、喉を押さえて下を向く。
「……美夜」
三歩先で、足音が止まる。
降ってきたのは、予想外の聞き慣れた声。
「美夜」
一番会いたくなかった、それでも心のどこかで待ち侘びていた人の。
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