「旭ほどあんたに都合のいい人間はいないわ」

こんな言い方は嫌だけど、と母は前置きする。

「旭は何もかも受け入れてくれるわよ。正体がばれても離れない、何も言わない、それどころか血をくれるとまで言ったんでしょう?あんたの性格もよくわかってるし、誰よりも好いてくれている」

冷静な、真面目な口調で淡々と言う。
母の言うことは正しいし、言われるまでもなくわかっている。

「必要なものを与えて、一生面倒を見てくれるわ。死ぬまで傍にいてくれる」

「私が死ぬ頃に旭はいないんじゃないの。そもそも私は死ぬの?年を取るの?」

「あんたは人間に近いわよ。私も半分人間の血が混ざっただけで、おばあちゃんとは全く質が違うもの。人より年を取るのが遅いか、長生きするか、その程度ね」

「だから、旭をパパみたいにさせろって?ていうか、そうしたくて旭を可愛がってきたのよね」

私がちらりと視線を向けると、母は目を逸らして椅子に背を戻した。

「……パパは純粋な親心からよ」

「わかってる。責めるつもりはないけど、旭にはいい迷惑よ」

母は苦い笑みを浮かべる。
この両親のすりこみが事を厄介にしているのは確かだが、それも私のためだ。大体、今更どうこう言っても遅い。

「旭に傍にいてもらうつもりはないよ。大事だから。私は旭の血を吸えない」

立ち上がって、空になったパックをごみ箱に放り投げる。

「捨てるわ、傷つけても。今度こそ」

言い残して、キッチンを出る。
母が珍しく、失敗したという表情で頭を抱えるのが視界の隅に入った。

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