10
咄嗟に思う。
しまった、と。
後退しようとして、すでに下がれない場所にいることに気づいた。
「逃げんな」
旭の目が、揺らぐ私の視線を捕える。
言葉に詰まって動けなくなる。
「ちゃんと聞けよ。ちゃんと話せ」
私は思わず唇を噛んだ。
旭の言うとおり。
もちろん、私はわかっていた。
気づかないほうがおかしいほどに、旭はあからさまだ。
だけど、それに応えるわけにはいかなかった。
だって、傍にいられない。
絶対に血は吸わないと決めているから。
「言わないでよ」
本格的に、泣きたくなる。
「聞かないで」
私は卑怯だ。
けど、だって、それしかない。
嫌いだなんて言えない。
離れてほしい、だけで精一杯だったのに。
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