挑戦的に笑みを向けられ、私は本能的に身を引く。
しかし、あっさり伸びてきた腕に捕らえられ、彼のほうへ引き寄せられた。

「好き」

肩に、佐伯くんの顔が埋められる。

「……好き」

耳元で、そっと囁かれる。

どくどくと、あっというまに鼓動が速くなっていく。
まずい。これ、絶対伝わる。
私、男の人に抱き締められたことなんてないし、しかも、こんないつ人が通るかもわからないところで!

完全にパニックになりかけた途端、肩口からくくく、と佐伯くんの笑い声がした。
思わず彼のほうへ顔を向ける。
顔を上げた佐伯くんとの距離が思いがけず近くて、私は悲鳴を上げて慌てて離れた。

「だから、そんなに意識してくれると期待しちゃうんだよね」

逃げようとした私をしっかり押さえ、佐伯くんは意地悪な顔で笑う。

「付き合ってっていうのはまだ早い?」

じっと見つめられて、私は目を逸らすこともできず、真っ赤な顔で彼を睨む。

「……早い」

ぼそりと答えると、佐伯くんはうれしそうに笑い、再び私の体を引き寄せた。

「じゃあ、待ってるから早くしてね」

その言葉に、私は拗ねたように黙り込み、返事の代わりに彼の肩に額をつけた。

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