「あなたのことが好きです」

図書館へ向かおうと二階の廊下歩いている途中、私はその言葉に足を止めた。

「付き合ってください」

声のほうへ顔を向ける。
建物の隅。
人気のないその場所に立つのは、奇麗な女の子。
と、佐伯くん。

「俺、好きな人いるから」

佐伯くんが、迷いもせずに淡白な口調で答える。
女の子の体が強張る。
そして、一言二言何か話した後、彼女は頭を下げて去っていった。

ほっと肩の力が抜けて、私はその感情にぎょっとする。
私、今安心した。
佐伯くんが断ってくれて。
好きな人がいると言ってくれて。

私は手すりに頭をぶつける。

なにこれ、なんで?
好きなのは花音じゃなかったの?
花音のことが片づいた途端、佐伯くんですか。
嫌だもう私!もっとけじめつけろよ!

ふと、一階にいた佐伯くんがこちらを見上げた。
驚いて、思わず手すりから身を引く。

しまった、見つかったかな。

悪いことをしている気分になって、私はきょろきょろと辺りを見回す。

見つかってないことを祈ろう。

まだどきどきしている胸を押さえ、私は慌ててその場を後にした。

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