10
強い雨の中、佐伯くんが差す傘に入り、彼に手を引かれて歩いていく。
男の子と手をつなぐなんて、小学生以来だな。
なんて思いながらも、頭の中はそれどころじゃないとわかっている。
「だから嫌いなんだよね、あの子」
さらりと吐き出された佐伯くんの言葉が、耳に刺さる。
彼が私を見下ろす。
私は苦笑いを浮かべて、何も言わずに俯いた。
佐伯くんはいつだって鋭い。
私の気持ちが花音に傾いていたことを、よく知っている。
そのうえで踏み込むのを躊躇っていたことだって、きっと気づいている。
だから、今の状況なら確実にわかっただろう。
花音は、好人くんが好きだ。
「……馬鹿みたい」
あれは完全に嫉妬だった。
好人くんに向けられたものじゃない。
私に向けられたものだ。
ぽつりと呟いた言葉が、雨に溶けて消えていく。
佐伯くんの足取りが緩くなり、さりげなく私の隣に並んだ。
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