ふつりと黒い感情が浮かんでくる。
嫌な奴だ、私。
そう自覚しながら、気がつけばこんなことを口にしていた。

「花音があなたのこと好きじゃなくても、いいの?」

好人くんの目つきが鋭くなる。
一層濃くなる私への敵視。
しばらく睨み合っていたが、彼は少しも怯むことなくはっきりと答えた。

「花音は俺のところに戻ってくるよ」

騒がしい店内で、彼の声はまっすぐに私の耳に届く。

「あんたが好きだなんて、ただの気の迷いだ。花音は思い込みが激しい。惚れっぽいし飽きやすい。見てろよ、そろそろわかるから」

窓を叩く雨の音が激しくなる。
否定することができず、私はただ視線を落とす。

そう、花音の態度は恋に浮かれてるように見えるのだ。
それは今だけのような。
そのうち冷めてしまうような。

「……あなたのことは飽きないの?」

ついでにもうひとつ、皮肉るように尋ねてみる。
しかし、好人くんはそれも鼻で笑った。

「飽きさせないよ。俺が離さないから」

自信たっぷりの口調に、私は苦い笑みを浮かべる。
なんだか勝てる気がしない。
ちょっとだけ彼がうらやましくなった。
彼のように恋ができたら、こんなことで悩む必要もないのに、と。

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