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それから街をぶらぶらして、買い物して、お茶をしてから別れた。
私が話を切り出そうとするたびに、佐伯くんにさらりと交わされ、結局何も言えずに終わってしまった。
「佐伯くんは、私のことずるいって思わないの」
居た堪れずに尋ねた言葉に、佐伯くんは相変わらず何を考えているかわからない顔で首を傾ける。
「ずるいのは、俺と花音ちゃんだよね」
今度は私のほうが首を傾げる。
「浅倉さんが状況を打破しようとしてるのを、無理やり引き止めてる」
私がゲームの主人公が何かであるように言って、佐伯くんは楽しげに笑う。
なんだ、全部わかってるのか、この人。
それもそうだな。佐伯くんも花音も、恋愛経験値は私と比べて天と地の差だろうし。
「浅倉さんは優しいからね、俺たちみたいなのにつけこまれるんだよ」
そして、顔を覗き込まれ、佐伯くんは意地悪に口角を持ち上げる。
私が何も言えなくなって視線を落とすと、彼は可笑しそうに笑った。
ずるいな、と思う。
そうやって、彼はいつも悪者になろうとする。
私が罪悪感を持たないように。
いつでも傍にいられるように、いつでも切り離せるように。
全部わかってるんだ、と気づくと更に罪悪感が湧いた。
じゃあねと手を振った後ろ姿に、ごめんなさいと謝りたくなる。
明かりの灯り始める夕方の街が、涙にぼやけた。
恋愛のことで泣いたのは、初めてだった。
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