高いところにあるものを取ってもらう。
見上げた背の高さに気づく。
浮かんだ手の筋に気づく。
自分と彼が違うことに気づく。
彼が男の人だということに。

知っていた、そんなこと。
漫画じゃよくある話。
だけど、そんなのただの情報でしかなかった。

「どうぞ」

私じゃ届かなかったところから簡単に本を抜き取って、佐伯くんはそれを差し出してくる。

「あ、りがとう」

私は目を合わせることができず、お辞儀でごまかして本を受け取った。

そのまま、二人でカウンターのほうへ歩き出す。
鼓動が落ち着かないまま、その状況に違和感を覚える。
佐伯くんとは、仲良くなるまで図書館で顔を合わせる程度の関係だった。
それが今ではこうして一緒に歩いている。

あの頃は、こんなこと想像もしていなかったのに。
彼の背中を見ながら、ぼんやり数ヶ月前までのことを思い出す。

彼はいつも一人で勉強しているか読書しているかだった。
私は空き時間をつぶしにきているか、課題をしにきているか。

真面目な人なんだな、と思っていた。
いつも友達に囲まれているようで、意外と一人が好きな人。
派手な人たちが苦手な私にとって、それは良い印象だった。
話をするようになって、すっかりそんな好意も忘れ去っていたが。

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