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花音は黙ってテーブルの上のケーキセットを見つめていた。
店内に人は少なくて、静かに流れているBGMが耳に届く。
困らせているな、と感じながらも、私は黙って彼女の返事を待った。
しばらく考えるように沈黙した後、花音は躊躇いながら口を開く。
「潤ちゃんは……」
いつもの甘えるような口調ではなく、迷うような遠慮がちな声。
「潤ちゃんは、あの人のことが好き?」
あの人、という言葉に心臓が跳ねる。
誰、なんて聞くまでもない。
「……わからない」
私は苦笑を漏らし、正直に答えた。
好きじゃないと言い切れるほど、佐伯くんを意識してないわけじゃない。
しかも、一週間前に告白されたばかりだ。
むしろ、意識している。
「あの人は、潤ちゃんのことが好きね。本気で」
独り言のように、花音が呟く。
心が突き刺されたような痛みを覚える。
本気で、好き?
なんて、そんなことより、彼女にそれを言わせるなんて。
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