10


私は拳を握り、意を決して口を開く。

「私……」

「いいよ」

その声を佐伯くんが遮った。
意味がわからず、私は目を見開いて彼を見る。
佐伯くんは苦笑を漏らし、重ねていた手を離す。

「いいよ、今は何も言わなくて。こんな状況で返事なんてできないでしょ。ゆっくり考えて」

その言葉に、泣きそうになる。
ずるい。
なんでこんなときに優しいの。

「……ごめん」

「あれ、もうふられちゃうの、俺」

「じゃなくて。八つ当たりしてごめんなさい」

おどけた様子の佐伯くんに頭を下げる。
彼が私のことを好きだというなら、随分ひどいことを言った。きっと、今までも。

「ほんといい子だね、君は」

先生のように頭を撫でられ、私は拗ねたように唇を尖らせる。
目を細め、佐伯くんが微笑む。
見たこともない顔で、優しく、柔らかく。

これからどうしよう。
ますます頭がぐちゃぐちゃになって、とりあえず私は目の前のお菓子に逃げることにした。

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