8
「まいったなぁ」
唇を噛んで黙ってしまった私に、佐伯くんは溜息をつく。
その様子が癇に障って、私はもう一度彼を睨みつけた。
「元は言えば、佐伯くんが花音をからかうからこんなことになったんじゃん」
佐伯くんが目を上げ、怯む様子もなく私を見つめるる。
「怒らせるようなことばっかり言って。あの子で遊んでたでしょ」
八つ当たりだとはわかっているけど、口調が強くなっていくのを止められない。
「花音が私のこと好きだって言ってるの知ってたでしょ。なのに、なんであんな態度取るの?だからこんなことになったんじゃないの!」
言いながら泣きそうになってくる。
自分に嫌気が差すのと、花音の表情を思い出して。
「からかってなんかないよ」
それでも、佐伯くんは冷静に言う。
「俺は最初からあの子を突き放せって言ってた」
まっすぐに見据えられて、私は信じられない、と眉を歪める。
「だからあんなことばっかり言ってたの?私、佐伯くんにそんなことしてって言った覚えない!」
「でもあの子だって俺を浅倉さんから離そうとしてたじゃん」
「だから、花音は!」
「俺だって一緒だよ」
畳み掛けるように言われた言葉の意味がわからず、私は声を詰まらせる。
「言ったでしょ、浅倉さんが好きだって。俺も、あの子に近づいてほしくない」
時が止まる。
音が遠のく。
私を見つめるその瞳に、熱が灯った気がした。
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