「追いかけてどうすんの」

手を振り払おうとするとぐっと力を込め、佐伯くんが冷静な声で言った。

「あの子と付き合う気あんの?無責任に慰めるのは、優しさなんて言えないよ」

まっすぐに見つめられて、ぐらりと瞳が揺れる。

付き合う気?
私が花音と?
そんなの、私は。

答えられなくて、私はすとんと腰を下ろした。
掴まれた手が離される。
座り込んだ私から好人くんに視線を移し、佐伯くんは言葉を続けた。

「君の言ったことは正しいと思うよ。実際あの子、浮かれて全然周り見えてなかったし、一回冷静に考えるいい機会になったかも」

私は顔を上げる。
好人くんは、神妙な顔をして俯いている。
佐伯くんは薄く笑い、好人くんの肩を押した。

「何ぼうっとしてんの。追いかけるのは君の役目でしょ。早く行かないと、手遅れになっちゃうよ」

佐伯くんに言われて、好人くんは弾かれたように顔を上げる。
それから焦ったように鞄を掴み、花音の走っていったほうに向かって駆け出した。

「青春だねぇ」

好人くんの後ろ姿を見送りながら、佐伯くんがのんきに呟く。
私はその口調に彼のほうへ目を向ける。
佐伯くんは状況についていけずに呆けている私を見て、いつものように何を考えているかわからない顔で笑った。

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