勢いよく噛み付く花音に、好人くんは納得いかないように溜息をつく。

「なんなんだよ、いきなり女が好きとか。花音、今まで男が好きだっただろ」

好人くんに冷静に言われて、花音は言葉を詰まらせる。

「おかしいよ、今の花音。ふわふわしてるっていうか、全然現実見れてない。本気らしいのはわかるけど、なんかの気の迷いじゃねーの」

「そんなんじゃない!花音は潤ちゃんだから好きになったの!」

「んなこと言ったって、全然可能性ないじゃん」

視線を向けられて、どきりとする。

「同性ってだけでも問題あるのに、こんな彼氏がいるんだから、おまえのこと好きになるとは思えない。ほんとは花音だって気づいてるんじゃないの」

花音が悔しそうに唇を噛み、大きな目で私を見つめる。
私は何も言えず、彼女を見返す。

ああ、ダメだ。
私、そんなことないよ、って言ってあげられない。

眉を下げた私の困った様子に気づいたのか、花音の瞳に涙が溢れてきた。
私から目を逸らし、キッと好人くんに視線を戻す。

「あんたにそんなこと言われなくてもわかってる!首突っ込んでこないでよ!」

そして、鞄をつかんで駆け出した、
驚いて、私も立ち上がる。

「花音!」

追いかけようとしたが、踏み出した足がふいに後退する。
焦ったまま後ろを振り返る。
手首を掴んで動きを止めていたのは、佐伯くんだった。

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