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カカカッとこちらへ駆けてくるヒールの音がして、振り返ると案の定やってきたのは花音だった。
「なんで潤ちゃんと一緒にいるのよ!」
その視線は私に向けられることなく、私の向かいに座っている佐伯くんを突き刺す。
「いちゃ悪い?君に許可でも取らなきゃなんないの?」
頬杖をついたまま花音を見上げ、佐伯くんはにやりと笑う。
この男、全然反省してない。
浮気が見つかったときのように固まっている私にかまわず、二人はまたしてもくだらない攻防を始めた。
講義を終えて、佐伯くんとキャンパス内のテーブルで話しているところだった。
メールをしていて、たまたま帰る時間が同じだとわかったので、流れで一緒にいたのだ。
それを花音に見つかるなんて。
なんて運の悪い。
「潤ちゃん、この男に近づかないでって言ったじゃない!」
「えっ、ごめん」
急に矛先を向けられて、私はぎょっとして反射的に謝る。
「なんの権利があってそんなこと言ってんの。潤が俺といたいって言ってんのに」
「言うわけないでしょ!なんで潤ちゃんがあんたなんかと!」
佐伯くんの反論に、花音が間髪いれずに噛み付く。
というか、またさらりと呼び捨てされてるし。
私は一緒にいたいなんて言った覚えはないし。
わざわざ花音を煽るようなことを言う佐伯くんに呆れつつ、私は逃げ出すように立ち上がった。
「ちょっとお菓子買ってくるね」
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