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それはある平和な昼下がりに起こった。
空き時間に花音と二人、ラウンジで話していると、そこに佐伯くんが現れたのだ。
「あれ、授業ないの?」
友達と一緒にやってきた佐伯くんと目が合い、彼はこちらに近づいてくる。
「うん、佐伯くんも?」
「や、俺はもう終わったんだけど、友達に付き合ってて」
佐伯くんは言って、花音にちらりと目を向ける。
そしてなぜか、花音は思いっきり佐伯くんを睨みつけている。
なんなんだこの空気。
ピリピリした空気に首を傾げながら、私は二人を交互に見る。
佐伯くん、絶対この子が花音だって気づいてる。
そして花音ちゃん、佐伯くんのこと知らないだろうに、なんでそんなに敵意むき出しなんですか。
普通の女の子は、彼を見るとメロメロになるはずなのに。
モテる人間同士、どんな相手でも動じないのか?
「彼女が花音ちゃん?」
突然佐伯くんがにっこり笑って発した言葉に、私はぎょっとした。
なに聞いちゃってるんですかこの人!
思わず花音のほうに顔を向けると、彼女は眉を寄せて私を見ていた。
やばい、よくわからないけど、まずい。
私は佐伯くんのほうを向いて、慌てて取り繕うように返事をする。
「そうこの子が花音。ね、可愛い子でしょ?」
そう言って、佐伯くんににっこり笑いかける。
何言ってるんだ私。
なんのご機嫌とりなんだこれ。
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