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佐伯くんとは、連絡先を交換してからメールするようになった。
たまに学校でも会う。
花音のことを誰かに言うわけにもいかないし、良い相談相手だ。
答えはいつも、殴れか蹴れかぶっとばせだけど。
「今日は一緒じゃないの、花音チャンは」
「これから授業で一緒だけど」
「へー、会いたいなぁ俺も」
「いいです会わないでください」
本気で言った私を見て、佐伯くんは可笑しそうに笑う。
話すようになってわかったけど、この人だいぶ意地悪だ。
完全にこの状況を面白がってる。
私をからかって楽しんでる。
次の授業が隣の棟だということで、私たちは教室に向かって歩き出した。
今まで男の子と二人になることなんてほとんどなかったので、ちょっと緊張する。
別れ際、佐伯くんはポケットから出した手を、私に向かって差し出した。
「なに?」
「あげる。がんばって」
にやりと笑い、佐伯くんは私の手に何かをのせて去っていく。
なんだと思って視線を落とすと、手の平に転がっていたのは飴玉だった。
お礼を言おうと思って顔を上げたが、すでに佐伯くんの後ろ姿は遠い。
私は飴玉を握り締めて、帰ったらメールしよう、と思った。
そして、そのとき思わず笑みを浮かべていた私の様子を花音が見ていたことなんて、私は全く知る由もない。
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