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数日前から、歩がそわそわしているのには気づいていた。
また何か企んでいるのだろうと踏んでいたが、いつものことなので放っておいた。
「あゆ、日曜にケーキ食べに行かない?美味しいケーキバイキングの店、教えてもらったんだ」
「行く!……あ、やっぱだめだ」
三日前、俺の提案に間を置かず食いついてきた歩は、すぐに何かを思い出したようにそう言った。
まさかケーキで断られるとは思わなかったので、俺は首を傾げる。
「何か用事でもあるの?」
「うん、ちょっと」
「ちょっと?」
「ちょっと……」
ごにょごにょと口ごもる歩の様子に俺は眉を寄せる。
基本的になんでも話す子なので、隠し事が恐ろしく下手だ。
「俺には言えない用事?」
にっこりと笑って、俺はソファーから前に乗り出す。
歩はぎくりとした顔で、ぶんぶんと首を横に振った。
「言うほどでもない用事」
「じゃあ言ってごらん。ケーキより大事な用って何だ」
「いや、ケーキはまた今度」
「あゆ」
なんだか恋人の浮気を問い詰めているようだ。
歩はちょっと困った顔をした後、しぶしぶと言ったように吐いた。
「智と買い物」
なんだとこら。
まさかの人物の名前が出て、俺はぴくりと肩を震わせた。
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