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俺、現在、尾行中。
誰をなんて言うまでもない。
世界一可愛い俺の妹だ。
「あゆー……」
泣きそうになりながら、でかいサングラスとマスクをつけてこそこそしているコート姿の男は、間違いなく怪しい。
職質にあっても仕方がない自覚はある。
しかし、俺は今それどころじゃないのだ。
なんたって、歩がデート中なのだから!
「ふらふらすんなって言ってんだろ」
「待って!いま!いまハリネズミが!」
「おまえんちペット禁止だろ」
通りかかったペットショップに張りついた歩を、容赦なく引きずっていくのは智。
うちの幼馴染だ。
「くっそあのやろうあゆにべたべた触りやがって」
ぶつぶつと悪態をつきながら歩く俺を、通りすぎる人が振り返っていく。
しかし、何度も言うが今はそれどころじゃない。
大事な妹に万が一のことがあってはかなわない。
「さとしーさとしーおなかすいたー」
「出てきたばっかりだろ」
「おなかすいたー」
「用事済ませてから」
さすが智。
俺だったらすぐにレストランにでも駆け込んでいるところだ。
ぶーぶー言いながらも、歩は智に従っててくてくとついていく。
ハリネズミって美味しいかなぁと呟く歩はそうとうおなかがすいているらしい。
口ん中血まみれになってしまえと、妹のデート相手は冷たく言い放った。
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