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「仕事の打ち合わせで来たんですよ。休日も仕事してるって心配かけたくなくて、偶然だなんて言ってるんですよ」

思わぬところからの助け舟に、俺は鬼澤を振り返る。
彼女はいつもどおりの無表情で、淡々と事務的に告げた。

「そうなの?お兄ちゃん」

「いや、うん、実はそうなんだ」

「あたしに気を遣う必要なんかないのに。ごめんね、邪魔して」

素直な歩は眉を下げて申し訳なさそうな顔で言う。

ああ、なんていい子なんだ。
いつのまにこんな大人になったんだ、あゆ。

涙ぐみそうになるのを堪えて、俺は歩の頭を撫でた。

「じゃあ、あたしあっちでケーキ食べてるね。お仕事頑張ってね」

「うん。もう買い物は終わったの?」

「え、う、うん、まだ。ちょっと迷ってるからね、うん、ケーキ食べてから、あの」

「目星はつけたんで、休憩してから買いに行きます。邪魔してすみません。失礼します」

なぜかしどろもどろになる歩の言葉を遮って、智が彼女を席に追いやる。
先に歩を席に向かわせてから、智は呆れた顔で俺を見た。

「とんだシスコンですね。何もしませんよ」

「いや、だから、俺は仕事で……」

「それに、怪しいことは何もないっすから。むしろ、楽しみにしててください」

何を?
と聞き返した言葉にには答えず、智は不敵な笑みを残して歩のテーブルのほうへ去って行った。

歩はすでにメニューを開いて、楽しげにケーキを選んでいる。
その可愛らしい姿に俺は頬を緩め、すぐに智の言葉など忘れてしまったのだった。
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