「あれ、貴志さん」

ふいに声を掛けられて、俺は声の主を見て今度こそぎょっとした。

「あっれー、お兄ちゃん。なにしてんの?」

テーブルに駆け寄ってきたのは、探し人二人だった。

しまった、サングラスもマスクもしてない!

ついわたわたと慌ててしまい、がたりと派手に椅子の音を立てた。

「いや、ぐ、ぐうぜん」

「デートっすか」

貴志に言われて、俺ははっとして鬼澤のほうを見る。
彼女も珍しく驚いたように硬直していた。

「えーっ!お兄ちゃん彼女いないって言ったのに!」

「ち、違う!彼女じゃない!そんなわけない!職場の後輩だ!」

歩の肩をつかんで必死で否定する。
鬼澤の視線が氷点下に下がって突き刺さった気配がしたが、たぶん気のせいだ。

「職場の後輩とデートっすか」

「だからデートじゃない!そこで偶然会ったんだ!」

「偶然?」

智の眉が不審げに寄せられる。
しまった、こいつは絶対勘がいい。

「もしかして、歩のあとついてきたとか」

呆れたような視線を向けられる。
歩が顔を顰めてこっちを見た。
たらりと冷や汗が垂れる。

やばい、どうしよう、なんて言い訳しよう。

引きつった俺の代わりに答えたのは、なんと全く期待をしていなかった後輩だった。
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