8
仕事を終えて慌てて家に戻ると、ミレイユはすやすやと眠っていた。
耳としっぽが出てきているが、まだ人の姿を保っている。
ヴィムはほっとしてベッドへ近づく。
気持ちよさそうに眠る顔は、どこか幼くて愛おしい。
朝の仕打ちを教訓に、ヴィムはキスをしたくなるのを堪えて、頭を撫でるにとどめておいた。
「……おかえりなさい」
ゆっくりとミレイユがまぶたを持ち上げる。
ヴィムの顔を見て何度か瞬きをした後、彼と認識して起き上がった。
「ごめん、起こした」
「いいの。待ってたの」
そう言って、こちらに手を伸ばしてくる。
なんだこれは。
なんのサービスだ。
ヴィムは内心動揺しながら、彼女の体を抱き寄せる。
細い腕が首に絡んで、甘えるように頭を肩にすり寄せてくる。
たぶん、この仕草は、獅子の姿でいるときと混同しているのだろう。
ミレイユは人の姿ではあまり近寄ろうとしない。
今はきっと寝惚けているのだ。
「いい子にしてた?」
「うん」
「……会いたかったよ」
さっきの我慢はどこへやら、ヴィムは額にキスを落とす。
しかし、耳がくすぐったそうに動いただけで、しっぽは大人しくドレスの中に収まっていた。
いや、それどころか、うれしそうに裾からのぞいて揺れていた。
ああもう、可愛い。
ヴィムはぎゅうっと彼女の小さな体を抱きしめる。
獅子の姿の彼女も好きだが、やっぱりこうしてくっついていたい。
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