8
のんびりと水族館を楽しんだ帰り。
日が傾いてきていたので、渋る旭を促し、周辺を散歩することにした。
知らない町を、話もせずにぶらぶら歩いて、空が夕焼けに変わっていくのを追いかけて、ちょっと疲れた頃にバス停に戻ってきた。
十分ほど待って、やってきたバスに乗り込んで、心地良い揺れにうとうとしてしまう。
気がつけば、窓際に座って日除けになってくれていた旭の肩にもたれて眠っていて、ふと目が覚めて顔を上げると、景色を眺める彼の横顔が沈んでいく夕日に染まっていた。
「なんか今日はごめんなさい」
学校の後に押しかけて、無理を言ってデートに付き合わせた挙句、逆に気を遣わせ、帰りのバスで寝てしまうという失態。
家の前まで来たとき、居た堪れなくなって謝ると、旭はきょとんとした顔をした。
「何を謝ってんの」
「いろいろご迷惑をかけたので」
「俺、うれしいって言わなかったっけ」
不思議そうに首を傾げられて、私はさらに気まずくなって俯く。
「今後はもう……」
「もうしないとか言うなよ」
ぺしんと頭をはたかれる。
目を上げると旭は呆れた顔をしていて、私の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
「やっぱおまえの体が一番だから怒ったけどさ。でもさ、ひきこもりの彼女がデートしましょうって迎えに来て、俺が迷惑だと言うとでも思ったの。うれしくないとでも思ったの」
面倒そうな、照れくさいのを隠すような顔で旭がそんなことを言う。
私は思わず頬を赤くした。
最後までフォローされてしまうなんて。
だけど、そんな彼のたった一言で、頑張って良かったとうれしくなった。
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