思えば生まれた頃から一緒にいて、共有している思い出はたくさんあるけれど、その記憶は生活圏の中で止まっている。
二人でどころか、他人と遠出した覚えなんてほとんどない。
遠足に行ったのも小学生のときだけだし、修学旅行なんかも行ったことない。
そう考えると、この時間が不思議で、嬉しい。

「何にやにやしてんの」

目敏くそう言って、旭は呆れた顔で私を見下ろした。

「私、友達いないじゃないですか」

「うん」

「だから、こういうの楽しいなと思って」

私が答えると、旭は予想外に眉間に皺を寄せた。

「俺、友達じゃないんですけど」

睨まれて、予想外の指摘に狼狽える。
友達だろうが幼馴染だろうが恋人だろうが、一緒にいて楽しいのは変わらないと思うのだけれど。

「彼氏と来られて楽しい、くらい言えねぇのか」

男心は難しいものだ。
ずっと一緒にいても、欲しがっている言葉のひとつも思いつかない。

「嘘だよ、わかるよ」

私が口ごもっていると、旭が軽く吹き出した。

「おまえこういう経験ないもんな。出かけるだけで楽しいだろうな」

「すいませんね」

「俺は友達多いけどな。こんな経験腐るほどしてるけど」

「……すいませんね」

「でも、ずっと2人で来たかったから。付き合えるとは思わなかったから、おまえよりうれしいよ、絶対」

馬鹿にしていたかと思ったら突然デレられて、私は今度こそ言葉を見つけられなくなった。
にやにやしてこちらを見下ろす顔が小憎らしい。
何も言えない代わりに、私は黙って旭のシャツの裾を掴んで先へ歩き始めた。

このひとには一生勝てる気がしない。


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