バスで移動して、いちばん近い海辺の水族館に到着した。
小さくさびれた建物で、人もまばらで物静かだ。

「久しぶりに来たな」

「遠足以来かも」

「ああ、小学生のときに来たっけ」

私に付き合ってきただけのはずだが、旭は楽しげな様子だった。

バス停から建物はすぐそこだったが、繋いだ手が汗ばんでいる。
日傘を差していても地面からの照り返しが強い。
思わず手で顔を覆うと、旭が気づいて足を速めた。

「あー涼しい」

「ちょっと休むか」

「大丈夫。行きましょう」

調子は悪くない。
が、さすがに海は無謀だっただろうなぁと、ここを選んでくれた旭に感謝する。
学生時代なら余裕だったはずだが、ひきこもっていたせいで免疫がなくなっているようだ。

入場料を支払い、中を進むとすぐに水槽が現れた。
ライトに照らされた水の中を、すいすいと魚たちが泳いでいる。

「あれーこんな感じだっけ?」

「水槽が小さく見えるな」

小学生のときはそれなりに大きな水族館に思えたが、今見ると可愛いものである。
それもなんだか楽しくて、二人でゆっくり水槽を見て歩く。

「エイって魚なのかなぁ」

「魚っぽいけどなぁ。エイヒレとか食べんじゃん」

「タコとかイカだって食べるじゃないですか」

「じゃあなんなんだよ」

くだらないことを話しながら、珍しい魚たちをのんびり観察する。
ところどころに手書きの説明が添えられており、アットホームな愛情が感じられて温かな気持ちになる。

普段こんなところに来るタイプじゃないだろうな、と旭の様子を窺ったが、彼は意外と真剣な顔で水槽の中を覗いていた。
思いがけず少年っぽい姿に昔から変わらぬ顔を見て、自然と笑みが浮かんだ。


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