行きたいお店探してきたからと駅を三つ移動してもらいカフェに入った。
ヨーロッパの路地裏に迷い込んだような、お洒落な店。
しかし、太陽に照らされて歩いたせいか、席に着いた頃には顔色が失われていた。

「だから言わんこっちゃない」

「大丈夫、大丈夫ですから……」

旭にお冷を飲むよう促されて、私は大人しくそれに従う。
メニューを見ても食欲などなくなっていたが、旭に合わせてランチプレートを注文した。

「たまに無茶するよな、おまえは」

「大丈夫だって言ってるじゃないですか」

「今にもぶっ倒れそうな顔で何を言う。帰りはタクシー使おう」

「いや、ランチ終わったら海に行きます」

「海?ばかじゃねーの!」

旭がぎょっとした顔で声を上げる。
頭ごなしに否定されて、私は頬をふくらませた。
デートと言ったら海じゃないの。

「無理無理、おまえそんなとこ行ったら死ぬぞ」

「わざわざ海の近く選んだのに……」

「自分の身体を考えて選べよ。たかがデートに命かけんな」

「たかがって!」

私が睨むと、旭がしまったという顔をした。
完全に気分が沈む。
帰ってやる、と立ち上がったところを、旭に手首を掴まれて制止された。

「ごめん、言いすぎた」

「もういいです」

「いや、違うって。俺はおまえといられればどこでもいいんだって。無理して海なんか行かなくても一緒にいられる。俺はおまえが倒れるほうが嫌だ」

まっすぐな目で真摯な言葉を向けられて、私は渋々座りなおした。
旭の手の力が緩んだが、私の手を離す素振りはない。

「そりゃうれしいよ、おまえとこんな時間に外で会えるなんて」

「そうですか」

「だから、せっかくだから一緒に楽しめる場所に行こう」

その提案に、私は首を傾げる。

「水族館ならおまえも平気だろ。もうちょっと足伸ばせばすぐ着くよ」

な、と旭が言い聞かせるように返事を促す。
優しくて、気が利いて、誰よりも私のことを考えていて、それはもう腹が立つほどだ。
これ以上ケンカするのも嫌で、私は拗ねた顔をしたまま黙って頷いたのだった。


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