決行は旭の授業が休講になった三日後のことだった。
いつにしようかとうずうずしていたら、そんなふうに旭から連絡が届き、飛び起きた私は睡眠不足の頭を叩き起こして準備に取り掛かった。

「よーし」

母からのお下がりの化粧品を駆使してメイクをして、髪を編み込みにしてまとめ、白いレースのワンピースを着る。
家の中のだらけた姿ばかり見せているから、これでまぁそれなりに見えるだろう。

玄関の姿見でチェックして、ドアを開ける。
青空が眩しい。
日差しに足が怯んだが、私は負けずに日傘を差して出発した。

ランチに行きましょう。

さっき連絡をすると一分もせずに返事がきた。

弁当でも買ってく、家で待ってろ。

私のやる気を邪魔させはしない。
勝手に大学の最寄駅を待ち合わせ場所にして、私はそれ以上返信をしなかった。

「美夜!」

待ち合わせ時間の十分前に駅に着き、改札外の広場のベンチで待っていると旭が大学のほうから駆けてきた。
遠目にも怒っているのがわかる。
が、私はゆったりと手を振った。

「早かったですね」

「家にいろって言っただろ馬鹿」

「ごはん食べましょう。おなかすいた」

立ち上がって彼を見上げると、一瞬旭の表情が揺れる。
私の珍しい格好に動揺しているのだろう。

「行こ?」

手首を掴んで促すと、旭はもう何も言わなかった。
ただ深い溜息をひとつ落とし、諦めたように私の手を取って歩き始めた。


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