その日、私はカフェで漫画を読んでいた。
心待ちにしていたゲームの発売日、買い物に出てきて疲れたのでカフェにて休憩だ。
ガラス張りの通路側のカウンター席は気に入らないが、人混みを抜けて帰るのはもっと気に入らない。
電話をしたら旭が迎えに来てくれるというので、それまでついでに買って来た漫画を呼んでいることにした。

「あの」

ふいに後ろから声がした。
一心不乱に漫画を読んでいた私は、最初それに気づかなかった。

「あのー、すいません」

そして、声を掛けられるあてもないので、それが私に向けられたものだと思いもしなかった。

「すいません。えっと、森川くんの彼女さん?」

森川。
私の彼氏は森川という苗字じゃなかっただろうか。

そこでようやく私は漫画を置いて振り返った。
知らない男の人。同い年ぐらいだ。
旭の知り合いだろうか。

「あ、やっぱり。美夜ちゃんだよね?」

私は返事の代わりに目を瞬かせた。
というか、驚いて声を出すことができなかった。

「ここいいっすか?」

プレートにサンドイッチとコーヒーをのせた彼は、私の隣の隣の席を示した。
私は頷く。
彼は礼を言ってプレートを置き、ひとつ開けた私の隣の席に荷物を置いた。

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