END
「おい見ろよこれ」
屋外でキスをしようとしたせいで、思い切り脛を蹴られた翌朝。
着替えの途中、ベッドに座って青紫になっている痣を美夜に見せると、まだ布団の中の彼女はふいっとそっぽを向いた。
「あなたが悪いんじゃないですか」
「ヒールで蹴るとかアホなの」
「自業自得ですよ」
そう言う美夜の露わになった白い首筋に、昨夜俺がつけた痕がちらりと見えた。
これでお互い様だ。
一人ほくそ笑むと、美夜は怪訝な顔で俺を見上げた。
「早く服着ろ。風邪引くぞ」
「あっち向いてて」
「もう散々見てるんだからいいだろ」
「この部屋出入り禁止にしますよ」
そうなったらこいつと会う術がなくなってしまう。
これ以上からかうのをやめて、俺はおとなしく自分の着替えを再開した。
「これからキスマークだって言おうかな」
「何をですか」
「この痕。たまにどうしたのって聞かれるんだよ。虫刺されって言ってんだけど」
振り返って首筋をとんとんと指で示すと、体を寄せてきた美夜は一瞬眉を顰める。
だが、ふと何か思いついた顔になって、唇に怪しい笑みをのせた。
「でも、キスマークつけてるって思えば、私も楽に血が吸えるかも」
たまに見せる、ニヒルな笑みにぞくりとする。
吸血鬼なのだと思い知らされる、男を誘う危険な笑み。
その表情に従順に、俺は彼女の首に手を添えた。
「じゃ、もっとつけてよ」
一度キスを落として、親指で昨夜の痕を撫でる。
美夜はぱちりと瞬きをして、ちょっと俺を睨むと、珍しく首に腕を回してきた。
噛みつくようにキスをされる。
そのまま倒れ込んで、朝日の差さない真っ暗な部屋で昨夜の続きになだれこんだ。
痣でも噛み痕でもキスマークでも、美夜のくれるものならば全部受け入れてやる。
そしてまた、今日も世界は俺と美夜のふたりだけのものになった。
END
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