12


俺がひとつ溜息をつくと、美夜が少し怯えた顔でこちらを見上げた。
軽く睨んでやると身を竦める。
こいつなりに彼女の立場で俺に気を遣ってるようだが、まったくの見当外れだ。

「俺さ、確かにおまえともっと出かけたいとか、いろんなとこ連れてってやりたいと思ってるけど、逆に外に出ない奴でよかったとも思ってんだ」

「……よかった?」

「外に出ると男がほっとかないだろうしな。家から出なければ、俺が独り占めできるし。俺のことだけ見てくれるし」

本音を吐き出すと、美夜が変な顔になって、すすすと俺から距離を取った。
なので、手を引いてその距離を元に戻してやる。

「だいたい、普通だろうがなかろうが、おまえはおまえだよ。その根暗な性格を直さない限り、友達もできないし学校も通わないし昼間っから外に出て遊ぶような奴にはなれない」

「失礼な」

「じゃあ普通の人間だったら、アニメもゲームも漫画も手を付けてなかったんだな」

指摘すると、美夜はぐっと言葉を詰まらせる。
俺は鼻で笑った。

「何もかも血のせいにしてんなよ馬鹿」

吸血鬼だろうがオタクだろうが普通の女の子だろうが、美夜は美夜だ。

「俺は、おまえと一緒にいられさえすれば何でもいいんだよ。嫌な思いも辛い思いもさせたくない。できる範囲で楽しくやろーぜ」

俺が言うと、じわりと美夜の瞳に涙が浮かんだ。
まさか泣かれるとは思わなくて、俺はぶはっと吹き出す。

「そんなに気にしてたのか」

「私だってちゃんと考えてますよ」

「あっそ。でも、俺のほうがおまえのこと考えてるけどな」

美夜が怒って立ち止まったので、俺も足を止めて彼女のほうを向く。
涙目に潤んだ漆黒の目が俺を見上げる。
俺は空いているほうの手を彼女の首に掛けた。

「やっぱり誰にも見せたくないな」

こんな顔を知っているのは俺だけでいい。
今まで過ごした圏内で、ずっと二人だけでいよう。

その瞳に吸い込まれるように、俺はそっと顔を近づけた。

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