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手をつないで夜道を歩いたことは何度かあるが、街中を歩くのは初めてだ。
行き交う車のライトに目を細めながら、並んでゆらゆらと手を揺らす。
このまま帰りたくないなぁと思った。
ずっとこの道が、この夜が続けばいい。
毎日一緒にいるのに、こんなことを考えてしまう自分が不思議だった。
「……私」
ふいに美夜が口を開いたので、俺はそちらに顔を向ける。
「こういうとき、いつも思うの。普通の人間に生まれてきたかったなぁって」
吐き出された言葉が予想外で、俺は何と言っていいものか返事ができなかった。
「普通の人に生まれてたら、普通に学校に通って、友達もできて、彼氏もできたりして。一緒に映画見に行ったり、食事したりお酒飲んだりできたのかなぁって。家にいると忘れられるけど、外にいて他の人たち見てると、なんで普通の生活ができないのかなって」
車の通りすぎる音に掻き消されそうな小さな声。
街灯に照らされた頬は酔いが回って赤く、伏せた睫毛の影が瞬きに合わせてゆっくりと揺れる。
「ほんとうは、もっと恋人らしいこともしてあげたいけど。太陽と、他人の目が怖い。自分の身体と、血が怖い。……だから、いつもごめん」
さらに話が思わぬ方向に行って、俺はぱちぱちと目を瞬かせた。
なんで謝ってんだこいつ。
確かに、もっとデートしたいとか昼間の街中を歩いてみたいと思ったりはしたけど、そのことで美夜を責めるつもりなんてさらさらない。
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