10


美夜と二人で居酒屋にいる状況は、なんだか新鮮で落ち着かなかった。
一緒に外食をしたことはあるが、飲みに来たのは初めてかもしれない。
家で交わすなんてことのない会話が不思議と楽しく思えた。
普通のカップルとして過ごすことが、どうもむずがゆく、たまらなくうれしかった。

「飲みすぎ食べすぎ」

だが、調子にのって料理をたくさん頼み、どんどん酒を追加した美夜は、帰る頃にはお腹を抱えて吐きそうにしていた。

「だってこんなとこ初めて来たんですよ……」

「おまえが外出を嫌がらなければ、いつでも連れてきてやるって言ってんのに」

俺は呆れて溜息をつく。
子供かこいつは。
店の外でタクシーをつかまえようと通りを見ていると、美夜が服を掴んだ。

「歩いて帰りませんか」

「はあ?おまえ歩けんの?」

「ちょっと消化したい……」

そう言って美夜がお腹をさする。
時計を見ると午後十一時。
ここから家まで約一時間。
腹ごなしには悪くないかもしれない。

「大丈夫ですよ。不審者が出たら私がどうにかしますから」

「それは頼もしいことで」

酔った女を連れて夜道を歩くのもどうかなと思ったが、美夜の言葉に背中を押される。
手を差し出すと、彼女はうれしそうに自分の手を重ねた。
ほんのり上気した頬が可愛い。
通りに沿って、俺たちはゆっくりと歩き出した。



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