「おまえ電車大丈夫?気分悪い?」

時刻表を確認しながら、俺はちらりと美夜を見る。

「平気。せっかくだから、ごはん食べてきましょうよ」

美夜は首を横に振って、珍しくそんなことを言った。
俺は目を丸くする。
どういう風の吹き回しだ。

「私だってたまには美味しいもの食べたい」

俺の考えを読み取って、美夜が恥ずかしそうな拗ねたような顔をする。
もちろん嫌なわけがない。
俺はぐしゃりと美夜の頭を撫でた。

「とりあえず、うちの近辺まで戻ろ。あいつらに帰るって言ってきたし」

そう言うと、今度は素直に頷く。
手を引いて、人混みを抜けて電車まで連れて行く。
席が埋まっていたので、美夜を人目から庇うように隅へ押しやる。
彼女は目立たないように身を縮めて、電車が動いてからもじっと窓の景色を見ていた。

「一人で映画行ったのか。なんで俺も呼ばねぇんだよ」

家から二駅離れたところで電車を降り、小さな居酒屋に連れて行く。
せっかくだしイタリアンだとかフレンチだとかデートっぽいことをしたかったのに、美夜が居酒屋に行ってみたいと言ったからだ。
なので、いちおうはお洒落なバーのような店にしておいた。

「だって昨日勝手に行けって言ったじゃないですか」

「そうだけど。そんなに行きたがってるとは思わなかった」

「楽しかったですよ。大体、映画って一人で見るもんじゃないですか」

確かに、こいつと映画なんて行っても放置されるのは間違いないが。

飄々とした顔の美夜にこれ以上文句を言うのは辞めて、メニューを渡した。
ずらっと並んだ酒の種類に興味津々な様子だ。
家で飲んでいるのを見ると、恐らくこいつは酒に強い。
モスコミュールを頼んでやると、アルコール入ってんの?というようにさらりと飲んでしまったので、俺は呆れてメニューを返した。

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