5
艶々とした漆黒の髪。
黒真珠のような丸い瞳。
陶器のような白い肌に、赤い唇。
二十年一緒にいるが、毎日顔を合わせていても美しいと思う。
ひきこもりで二次元が好きで友達のいない女でも、怪しさと色気を孕んだ雰囲気には、男なら誰でも溺れてしまうはずだ。
もちろん、そんなことは許さないが。
「おまえ茶髪にしたら美人さが三割減だぞ」
「私だって今時女子になってみたい」
「その辺の女と同じレベルに落ちてどうすんだよ。俺に釣り合うと思ってんのか」
そう言ってやると、美夜は口を噤んで拗ねたように黙った。
あほだなぁと思う。
美夜の隣に並べば、俺のほうがその辺の男と変わらないというのに。
俺がどれだけ美夜の幼馴染であることを羨ましがられたことか。
どれだけ周囲を牽制してきたことか。
どれだけ恋人になれたことを自慢していることか。
こいつは何もわかっていない。
俺がどれだけ美夜を好きでいるか、欠片も理解していない。
「俺の隣に立てる女はおまえくらいだよ」
そのあほな女に、俺は刷り込むように言う。
卑怯でも恥知らずでもなんでもいい。
世間知らずな美夜は、そんな俺の考えなど知らずに眉を寄せた。
「隣に立てたって、誰かに見られるわけでもないですし」
「たまには街中デートでもしよう。天気悪い日選んでさ。映画とか、買い物とか」
「映画いいですね。今、好きなアニメの劇場版が……」
「勝手に行け」
悪いが俺はアニメには一ミリも興味がない。
せっかく乗り気になって頭を浮かせた美夜は、再び枕にぼすんと沈む。
俺は笑って体を上に移動させ、今度は彼女を腕の中に引き寄せた。
そうは言いながら、きっと美夜に頼まれたら喜んでついていくのだろう。
結局は彼女といられればどこでもいいのだなと、俺は毎日居座っている部屋の中で小さく息をついた。
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