バイトを終えてまっすぐ美夜の部屋に行くと、彼女はベッドで漫画を読んでいた。

「ただいま」

「おかえりなさーい」

返事をしながらも、一切漫画から目を離そうとしない。
このやろう。
こっちは早く会いたくて、頑張って働いて帰ってきたというのに。

「ちょっと、せまいんですけど」

荷物をベッドの脇に置いて、美夜の隣に転がり込む。
美夜はうっとうしそうにしたが、奥にずれて場所を空けてくれる。

「なんですか」

腰に腕を回すと、彼女はようやく漫画を伏せてこちらに目を向けた。

「おまえには疲れて帰ってきた恋人を労おうという優しさはないのか」

「あー……おつかれさまです」

「ほんとだよ。疲れた」

胸に顔を埋めると、美夜の手が頭を撫でる。
それでやっと一息つく。
今日も頑張った甲斐があった、俺。
これくらいでそう思ってしまうあたり、俺の機嫌も単純なものだ。

「いいな、髪ふわっふわ」

俺の髪を指で梳きながら、美夜が独り言のように言う。

「よくねぇよ。朝はねて大変なんだ」

「茶色に合ってるじゃないですか。私も染めたい」

「やめろ。おまえには黒が似合う」

俺は美夜を見上げて顔を顰めた。

色素の薄い癖っ毛は、確かによく羨ましがられる。
幼い頃から外国人ようだと称えられてきたし、とくに女からの評判は上々だ。
美夜も昔から羨ましがっていたが、こいつは自分の黒髪でその美しさが増しているのだということをわかっていない。
そもそも、自分の顔がどれだけ整っているかをわかっていない。


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