美夜が、というより月野家が、何か秘密を持っているのだろうということは幼い頃に感づいていた。

異様な家の暗さ、彼女たちの体の弱さ、外国の血の混じった容姿、美夜とその母親のぞっとするような美しさは、怪しさ満点で子供の妄想を逞しくさせたものだ。
だが、美夜の父親の社交的で家族思いの性格はそれを打ち消すのに十分だったし、実際は少し変わっているくらいで普通の家庭と変わりなかった。

それでも、ずっと一緒にいるからこそ感じる違和感もあった。
美夜が完全に心を開いてくれないこと。
頑なに他人行儀な接し方をすること。
親しい人間を作ろうとしないこと。

それゆえに、家族に向ける無防備な笑顔にどれだけ嫉妬を覚えたことだろうか。
俺は、美夜のすべてを知りたかった。

「森川くん、それどうしたの」

バイトの先輩に尋ねられて、俺はぎくりとする。
首のほうを示されて、俺は慌てて隠すように手で押さえた。

「虫刺されですよ。昨日、庭で雑草抜いてて」

「痛そー。赤くなってるよ」

「後で薬塗っときます」

俺は慣れた台詞で笑ってごまかした。

しまった。
朝急いでいたせいで、襟の広い服を着てきてしまった。
いつも痕が酷いときは、シャツなりタートルネックなりで隠すようにしているのに。

伸びた髪の襟足をかき寄せて、なんとか傷を隠そうとする。
しかし、指先で痕に触れると、自然と唇に笑みがのった。

今、美夜の秘密を共有している。
家族以外、俺だけ。
やっと美夜の特別になれた。

彼女は申し訳なさそうな顔をするが、この痕が俺をどれだけ喜ばせているか知れない。
吸血鬼だと知ったとき、すべてのピースが当てはまった気がした。
これまで感じてきた疑問や恐怖や違和感が繋がって、すとんと俺の中で落ち着いた。

非常識だとか、恐ろしいだなんて思わなかった。
なるほどこういうことか、と納得しただけだ。
俺は美夜が美夜であればそれでいい。

時計を見て、まだ当分帰れないことに溜息をつく。
あいつは家で大人しくしているだろうか。
そう考えて無意識にまた、彼女のつけた秘密を指先で撫でるのだった。

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