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そのまま寝てしまい、再び朝起きると美夜は隣で眠っていた。
完璧に斜光された部屋に朝の光は届かず、俺は携帯で時間を確認する。
今日は一日バイトだ。
そろそろ家に帰って出かける準備をしないと。
「……旭」
起き上がってベッドの縁に座っていると、後ろから美夜の手が服を掴んだ。
「寝てろ。おまえ、まだ眠ったばっかりだろ」
「一緒に寝てて」
「誘惑すんな。俺はバイトだ」
「行かないで」
このやろう。
自分は俺を一人で寝かせたくせに。
「夕方には帰る。大人しく寝てろ」
それでも甘えてくれるのはこうして寝惚けたときくらいなので、悔しいことにうれしくなる。
服から手を離させて額にキスを落とし、出かけられなくなる前に立ち上がった。
不満そうな顔をしていたが眠気に勝てなかったらしく、美夜は拗ねたようにこちらに背を向けて布団にくるまる。
くそ、可愛い。
もう二十年も側にいて、見飽きるほど顔を合わせているというのに、いまだに可愛いと思ってしまう。
「いってきます」
寝てるかどうかわからない背中に声を掛けて、出かける決心が鈍らないうちに部屋を出る。
暗い家の中を抜けて玄関のドアを開けると、容赦ない日差しが外を明るく照らしていた。
ぱたんと後ろでドアが閉まる。
ひとつ伸びをして深呼吸をし、俺は門を開けて日常の中に足を踏み出した。
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