昔から不可解で手の掛かる女だった。

仲良くしてあげてね。
色々助けてあげてね。

そう、彼女の両親に言われ続けてきたから、自然と俺が守らなくてはと思うようになっていた。

体が弱くてすぐぶっ倒れるし。
俺以外とまともに関わろうとしないし。
誰にも近づかず、誰も近寄せず、いつも一人冷めた顔で口を噤んでいた。

そのうちアニメや漫画、ネットやゲームにのめりこんでいって、ひきこもりに拍車がかかった。
高校すら進学する気はなかったし、大学も就職も完全に諦めていた。
それでも親から黙認されていたし、亡くなった祖父母は資産家だったし、俺が口を挟む隙なんてなかった。
本当のことを言えば大学まで一緒に通いたかったけれど、俺はそれを口に出すほどの素直さを持ち合わせていなかった。

「美夜」

ベッドの上からパソコンに向かう幼馴染の名を呼ぶ。

「美夜。美夜さん」

否、恋人の名を。

ヘッドフォンで耳を覆っている彼女に俺の声は届かない。
現在、午前三時。
ベッドに引きずり込んで一緒に寝たはずだが、ふと目が覚めると隣に彼女はいなかった。
美夜の身体は夜行性としてできている。

闇に溶ける漆黒の髪を見つめて溜息をつく。
どれだけ傍にいたって、いつまでたっても美夜は遠い。

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