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夕食を終え、すっかりマスターと話し込んでいると、彼の携帯が鳴った。
マキだよ、と彼は私に告げ、携帯を耳に当てた。
「家にもいない、携帯にも出ないって怒ってたよ」
「え、もう帰って来たんですか。仕事だから長引くと思ったのに」
「夕食だけだったみたいだね。迎えにくるって」
マスターは楽しげにこちらを見る。
「君は優秀なシッターだね。これだけマキがべったりになるなんて」
私は思わず苦い表情を浮かべた。
「滅相もないです。ご主人様には稼いでいただいておりますので」
上品ぶって答えると、マスターは声を上げて笑う。
私からすればもう少し離れてくれてもいいと思っているが、束縛は酷くなる一方だ。
あのわがままなお坊ちゃまを躾ける方法を教えていただきたい。
「リョウちゃん、今まで彼氏がいたことは?」
「ないです。友達もできないのに、彼氏なんてできませんよ」
「そっか。じゃあ初めての恋愛かな」
「まぁ、そうですね」
私が頷くと、マスターは興味深げにこちらをじっと見た。
「早く結婚したこと、後悔してない?」
尋ねられて、私は目を瞬かせた。
確かに、一般的に、遊びたいお年頃だと言われる時期だが。
しかし、考える間も要せず私は首を振った。
「安心してます。とりあえずは生活の心配なくなったし、祖父母も喜ばせてあげられましたから」
私の答えに、今度はマスターが目を瞬かせた。
ふ、と笑って、ワインを口に運ぶ。
「そうだね、それが一番だよね」
「私、恋愛にはあまり興味がないんです」
「そっか、君らしいね」
「お役に立てなくてすみません」
私の言葉に、え、とマスターは目を見開いた。
自分の参考にしようと質問したわけじゃないんだろうか。
首を傾げると、珍しく彼は苦笑いを浮かべた。
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