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完成した料理は、マスターに盛り付けてもらい、店のテーブルに並べられて見事な出来栄えになった。
見た目だけでも素晴らしい出来になったことに、私はテーブルを見て拍手する。
「すごい。お店で出せそう」
「盛り付けだけでも頑張ったら、ある程度視覚で騙されてくれるよ。家でもやってみて」
マスターはそう言って、自分のぶんのワインと、私のぶんのオレンジジュースをグラスに注いだ。
なるほど、あのお坊ちゃまには効果があるかもしれない。
今まで適当に皿にのせていたのを反省して、盛り付けも頑張ろうと思い直す。
「では、いただきます」
「いただきます」
私は手を合わせて、おそるおそる料理に手をつける。
比較的簡単なマリネとカルパッチョは美味しい。ポタージュはまぁまぁ。ハンバーグはもう少し、とう感じだ。
「どう?」
「美味しいですけど、スープは胡椒入れすぎでしたね」
「そうだね。もうちょっとじゃがいもの甘みを生かしてもいいかもね」
「ハンバーグも少し固いかな……」
「こねすぎか、煮込みすぎか……ちょっと厚く成形しすぎたかな。作りながら調整してくといいよ。リョウちゃん、基本的に料理はできてるから、あとは慣れだと思う。でも、ちゃんと美味しいよ」
マスターはきちんとアドバイスをくれて、最後ににこりと笑ってくれる。
私も安心してありがとうございます、と頭を下げた。
「また習いにきていいですか?」
「もちろん。もう君の苦手な先輩も辞めちゃったしね。安心して遊びにおいで」
私の申し出に、マスターはにやりと笑ってそう答えた。
「へ?辞めちゃったんですか」
「引っ越すんだって。遠くなるからって。あの子仕事できたから、こちらとしては残念なんだけど」
それは朗報だ。
いや、別に悪い人ではないのだが、彼女がいると店に顔を出すのが気まずかったのだ。
「……もっときちんと話をすればよかったかな」
私が呟くと、マスターがぱちりと目を瞬かせた。
「大人になったねリョウちゃん」
そう言われて、なんだか微妙な気持ちになる。
無言で料理を口に運ぶと、マスターは面白そうに私を見て、くすりと笑みを漏らすと何も言わずにワインを一口飲んだ。
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