「うらやましいんだよ、このやろう」

返事のない阿呆面を見ているうちに、ぽろりと本音が漏れた。
青い頭に顔を埋めると、頬にふかふかな感触。
いつも投げているのが申し訳なくなってきて、控えめに謝罪を込めて撫でておく。

「なんでこんなに大事にされてんだよ。おまえ、ただの水族館の土産物だろうが」

最後のデートになるはずだった。
デートと呼んでいいものだったかもわからない。
ただ喜ばせてやりたかったし、いい思い出にしたかった。
両親のもとへ帰すことが彼女の幸せだと思ったし、まさか俺の側を選んでくれるとは思わなかった。

ずっと待っていたくせに。
いつか両親が迎えにくるだろうと、期待を捨てきれずにいたくせに。

俺だって子供じゃない。
自分の我儘よりも、好きな人の幸せのほうが大事だと思う。

「おまえ見てたら辛いんだよ。あのときのこと、思い出す」

自分の馬鹿さ加減を思い出して嫌になる。

一緒にいても気づかなかった。
凌の気持ちを汲み取れなかった。
勝手に突き放して傷つけた。
もう少しで、完全に失ってしまうところだった。

「あいつ、あのとき俺がいなかったら、おまえを連れて出てくつもりだったのかな」

そう考えたらぞっとする。

こいつを迎えに来ただけだなんて、言い訳にもならないし、そこまで貧乏性な女だと思いたくない。
俺に会いに来てくれたのだと思いたい。
戻ってきてくれたと思いたい。

「……あいつはもう忘れたかな」

忘れたのなら、それでいい。
覚えていて尚このぬいぐるみを留めているのなら、さっさと忘れてほしい。

朦朧とする思考を押し留めるように、ぺんぎんに回した腕にぎゅっと力を込める。
ひとりの夜は苦手だ。
俺は頭の中でぐるぐると愚痴を吐きながら、ライバルを抱いて夢の中に落ちていった。

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