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「おい、こっち来い」
「やですよ」
晩酌をしながら凌を呼べば、彼女はソファーに座ったままそっけなく答える。
「なんでだよ」
「今手ぇふさがってるんで」
「その鳥をどけろ」
「銀だってば。名前で呼んでくださいよ」
ペンギンだからギン。
なんでそこを取ったのか不思議でならない。
俺は凌の手をふさいでいるぬいぐるみを睨む。
が、当然ながらそのくりくりの目が動くはずもない。
凌の膝の上がペンギンの定位置で、テレビを見るときも、本を読むときも、パソコンを開いているときも、リビングにいるときは大抵そこにいる。
せっかく二人でゆっくりできる時間なのに。
俺は若干拗ね気味になって、丸めたティッシュを投げつけた。
「もーなんですか」
「こっち来いっつってんだろ」
「あんたガキですか」
凌は溜息をついて立ち上がると、ティッシュをゴミ箱に捨て、仕方なさそうに俺の隣に座る。
「だからこいつはいらん」
「なんで投げるの!」
ちゃっかり連れてきたぬいぐるみを奪い取ってソファーに投げると、凌にぎろりと睨まれた。なんだ俺が悪いのか。
頬を膨らませると、ぐーでパンチされてぷすっと空気の抜ける音がした。
「銀ちゃんのほうが手が掛からなくて可愛いわー」
嫌味ったらしく言われたのを聞き流し、凌の体を引き寄せる。
人の温もりを側に置いて安心し、俺はもたれかかってくる凌に文句も言わず、ようやく落ち着いてグラスを傾けた。
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