END


それじゃあ、とクーポンをもらって席を立ち、二人と別れる。

「元気でね、小谷」

「はい。先生も」

「僕が言うことじゃないけど、小谷をよろしくね、旦那さん。楽しそうな顔が見られてよかった」

「はい。ありがとうございます」

余計なお世話だと思いつつも付け足した一言に、彼は丁寧に頭を下げてくれる。
それから、失礼します、と彼らは背を向けて歩き出した。
俺は手を振って、笑顔で並んだ背中を見送る。

手をつなぐわけでも、寄り添うわけでもなく、ただ同じ方向へ進んでいく後ろ姿になぜだか安心する。
小谷が誰かと一緒に歩いているだけで、妙に泣きたくなった。

これが、俺が高校時代に見たかった姿なのかもしれない。
うっとうしがられても、彼女が一人で平気な性格だとわかっていても、それでもどこか影のある表情を放ってはおけなかった。

俺は手の中にあるクーポンとポイントカードに視線を落とす。
でも、俺がしてきたことも無駄じゃなかったのかもしれない。
少しは、ほんの何ミリかは、俺のおせっかいも彼女に届いていたのかもしれない。

「今日の夕食は美味いだろうな」

自然と口元に笑みが浮かぶ。
二人の姿が見えなくなって、俺はバーガーショップへ足を向けようとした。

「……と、その前に」

俺は足を止め、スーツのポケットから携帯を取り出して、発信履歴の一番上にある番号へ発信する。
耳に当てれば、すぐに応答する聞き慣れた声。

「あ、俺だけど。あのさ、今度の土日、こっちに来ないか?」

突然の誘いに、受話器の向こうの声が怪訝そうになる。
俺はいっぱいになったポイントカードを見て、ケーキ好きな彼女が喜ぶだろう週末のことを思って胸が幸せでいっぱいになった。

END


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