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「あ、あとせっかくだし、これも」
小谷は手に取ったカードをじっと見つめた後、ずいっとこちらに差し出してきた。
旦那さんがちょっと驚いた顔をする。
受け取ってみると、駅前のケーキ屋のポイントカードだった。
すべてスタンプで埋まっている。
確か、これで好きなケーキと交換できるはずだ。
「ここ人気でしょ。私も好きで、たまに連れてってもらうんですけど」
「いいよそんな。小谷が使いな。せっかく貯まったのに」
「いいんです、私はこの人に買ってもらうんで。どうぞ、彼女が来たときにでも」
小谷はそっけない口調で言うが、渡そうか悩んだ顔を見てしまうと受け取るわけにはいかない。
地道に貯めてきたんだろうに。
俺が無理やり返そうとすると、彼女は断固拒否してきっぱりと言った。
「先生にはお世話になったので。ほんとはちゃんとケーキでも買って渡したいくらいですけど、会う機会もないですし、もらってくれたらうれしいです」
思わぬ言葉に息が詰まる。
これはもしや、生徒たちがよく言っているツンデレってやつか。
デレたのか小谷。
じわじわと目が潤んで、俺は高ぶる感情そのまま、テーブル越しに小谷に抱き着いた。
「ありがとう小谷ー!こんないい子に育ってくれて、先生うれしい!」
「ちょ、やめてくださいよ気持ち悪い!ここどこだと思ってんですか!」
本気で拒否され逃げられたが、周りの視線も気にならないほど感極まって、俺は小谷の手をぎゅっと握り締める。
「彼女もきっと喜ぶよ。先生、こんないい生徒がいるんだぞって自慢するよ」
「泣かないでくださいよめんどくさい」
「先生もいつか、小谷みたいに結婚できるように頑張る。そのときは、先生がケーキを持ってお礼に行くから」
「そりゃ期待してます」
鼻で笑った小谷は、それでも俺が握った手を離さなかった。
そんな小谷と、ぐずぐずと目を擦る俺の様子を、旦那さんが頬杖をついて生温かい目で見守っていてくれた。
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