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それからひとつ咳払いをして、ところで、と小谷は話を切り替えた。
「先生、学校帰りなんですか。買い物途中ですか」
「ああ、そうだった。あんたのクーポンを待ってたんだよ」
代わりに答えたのは旦那さんで、俺が買い物予定のバーガーショップを指差して見せる。
それで合点がいったようで、小谷はなぜか機嫌が治ったらしく笑顔になって財布を取り出した。
「期限近いの全部あげますよ。使い切れないんで」
「え、なにそれ。財布じゃなくてカードケースなの?」
「信じられないでしょ。これ全部カードとクーポン類ですよ」
「生活の知恵です。先生も社長も金持ちだから金銭感覚おかしいんですよ」
「いや、あんたは貧乏人すぎるだろ。不自由させてないのに」
長財布かと思えば、テーブルに広げられたそれはカードケースで、中に何やらぎっしりつまっている。
その中からさくさく何枚か抜き取り、小谷はこちらに向けて並べ始めた。
「これ、セットの引換券です。ポテトとドリンク付き。あ、チキンもあった。ついでに向こうのドーナツの半額券も」
「すごい。デザートまで」
「でも野菜ないんで、お惣菜とか買ってったほうがいいですよ。もうすぐ値引きされる時間だし」
いつも彼女に注意されていることを言われて、俺は首を竦めて頷く。
ハンバーガーに入っているレタスでは足りないらしい。
俺はありがたくクーポンを受け取り、さらに他にも何枚かもらった。
さすが元勤労学生。
これだけで生活できそうな気がする。
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