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「お世話になった先生いじめんなよ」
呆れた様子で助け舟を出してくれたのは旦那さんだった。
「いじめてないですよ。ただの思い出話です」
「高校時代もこうやって困らせてたんだろ。嫌な生徒だな」
「だって学校来いってしつこかったんで」
「しつこいなんてひどい。せんせい泣いちゃう」
俺が泣き真似をしてみせると、小谷はしらけた目を見せた。
去年より冷たさが増している。
俺だって小谷には何度も泣き落としで負けたんだから、少しくらい仕返ししたかったのに。
……いや、去年より、というか。
「でも、やっぱり学校より外で会うほうが生き生きしてるね、小谷。こんなに表情豊かなとこ、見たことない」
「はっ?」
思ったことをそのまま言うと、小谷はぎょっとした顔をした。
その表情すら初めて見た。
学校ではいつも無表情か、不機嫌そうか、哀しそうかのどちらかだったのに。
「そんなことないですよ、変わらないです」
「いや、楽しそうで何よりだよ」
「別に楽しくないですよ。いつもと一緒ですよ」
小谷は必死な態度を抑えるように、努めて冷静に否定する。
そんな彼女を、隣の旦那さんがにやにやした顔で見ていた。
自分の前では楽しそうにしていると聞いたら、そりゃあうれしいだろうな。
こちらまで思わず口元が緩む。
小谷は旦那さんの視線に気づき、照れているのを隠すようにぎろりと彼を睨みつけた。
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